2019年初旬、私はファミリーコンステレーションの香港トレーニングを終えて、日本に帰国しました。
何度も香港と日本を往復し、その度に、深い学びを得て、生活の中で少しずつ消化する——そんな時間を仲間と過ごした人生の踊り場のような時間でした。

その期間、何度も強烈な体験があるのですが、それを1つにまとめるとするなら、「長年、知りたかった答えに、ようやく辿り着いた」という感覚です。
文字通り、その感覚は、「私は、このことを知るために、ここまでやってきた」という満ち足りた感覚も伴っていました。
そして、このこと、つまり、私が知りたかった答えとは——家族という源泉の意味と、そのパワーのことでした。
それを、ここで全て言語化するのは難しいのですが、だからこそ、各種コースで、それを皆さんにお伝えしています。
さて、上に書いた、強烈な体験の中の1つを、今回はご紹介したいと思います。
それは、あるクラス開催のために香港に10日間ほど滞在して、帰国した時のことです。
帰国した直後から、約2週間、私は毎朝、奇妙な感覚で目を覚ましていました。
「ここ、どこ?」
「私、今日、何をする人?」
毎朝、そんな感覚で、驚いて、朝、飛び起きていたのです。
部屋を見渡しても、すぐには、ここがどこだかわからない。
時計を見ても、瞬時には、何もわからない。
想定もしていなかったけれど、その時、私の自我は、崩壊していたんです。
脳科学で読み解くと、何が起きていたのか
この体験を、脳科学の言葉では、次のように説明できます。
私たちの脳には、「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれるシステムがあります。

これは、「自分とは何者か」「自分の過去・未来・役割」という物語を、常時バックグラウンドで走らせているシステムです。
「ここどこ?」「今日何をする人?」という感覚は、このDMNが担っている「自己参照処理」が一時的に機能を失った状態と言えます。
では、なぜそれが起きたのか。
脳科学者カール・フリストンの「予測符号化」という理論があります。
脳は常に「次に何が来るか」を予測しながら世界を構成しているということ。
つまり、それまで何十年も子ども時代から積み上げてきた、私の予測モデルが、香港でのトレーニングによって一気に更新されたとき、脳が一時的に「世界が予測不可能」な状態になっていたのです。
2週間という期間は、神経系が新しい統合パターンを安定させるのに必要だった時間でした。
これは、ゲシュタルト的洞察——いわゆる「Aha体験」の、身体レベルでのバージョンです。
通常の洞察は認知レベルで起きますが、私の場合はソマティックな深さで行われていたトレーニングの影響で、神経系全体、自己感覚全体を巻き込んだ統合が起きました。
トラウマの崩壊とは何が違うのか
これは、私がこの体験を語るときに、最も大切にしていることです。
「崩壊」という言葉は、一見、トラウマ的な解離と似ているように聞こえます。
でも、構造は真逆です。
トラウマによる解離は、圧倒的な脅威がきっかけで起きます。
つまり、神経系は収縮し、凍りつき、断片化した記憶が残ります。
ですが、私に起きたことは、その逆でした。
きっかけは、統合・学びの完成でした。
神経系は収縮ではなく、拡張・開放へと向かっていた。残ったのは断片化ではなく、新しい連結感でした。
ポリヴェーガル理論の言葉を借りれば——安全が十分に確保された状態で、長年の防衛パターンが「もう要らない」と判断されたときに起きる、保護的な再編成。
精神科医ヴァン・デル・コークは「身体は覚えている」と言いました。
その逆バージョンが、私に起きたことです。
身体が「もう手放していい」と知ったとき、自我の外殻が一時的に溶けた。
崩壊ではなく、再構成の閾値を越えた瞬間だったのだと言えます。

家族システムの視点から見ると——役割の鎧を脱いだ後
そして、家族システムの視点から見ると、この体験はさらに別の意味を持ちます。
ヘリンガーのファミリーコンステレーションの文脈では、これは「所属の場からの切り離しと、再接続」として読めます。
香港でのトレーニングで、私は——それまで家族システムの中で無意識に担っていた「役割としての自分」が、可視化され、切り離される体験をしました。
帰国後の「私、今日、何をする人?」という問いは、コンステレーション的には非常に健全なサインです。
役割から切り離された後に来る、本来の自己への問い。
「崩壊」ではなく、「役割の鎧を脱いだ後の、裸の自己への出会い」——と言い換えることができます。

崩壊したけど、死ななかった
あの2週間を経て、私の人生は変わりました。
対人関係も、家族関係も、夫婦関係も、ますます良くなり、仕事においても、私生活でも、安心して自分でいられることがデフォルトになりました。
子どもたちとの関わりは、ますます良くなり、子どもたちの心身の健康も促されました。
トレーニングが修了したときのティーチャーの言葉が今でも忘れられません。
「子どもたちがこんなに元気な状態で、長いトレーニング期間を終了できたのは、家族関係が安定していたから。それはあなたがこれまでやってきたことの結果です。」
当然、それまでのインナーチャイルドワークも、瞑想トレーニングも、全てに意味があったのです。
そして、それらを踏み台にして、私は、人生で最も欲しかった答えを、手に取ることができたのでした。
長い間、私を縛り付けていたものが、少しずつ溶けていき、あれ以来、私の人生は、ますます自由になっていきました。
「感情の扱い方」を変えたわけではないのです。
それどこから、私が、意図的に行ったことは、何もありません。
私に生じたのは、家族というシステムと、人生というシステムへの深い理解でした。
そして、この体験が教えてくれた、最も大切なことがあります。
それは、多くの人は、心の奥底では、「自分が変わること」を恐れていて、「自分が自分でなくなるのではないか」という根源的な怖さを持っているのだということ。
でも、私はあの朝に学びました。
崩壊による傷ついた自我の死は、本当の自分の再生である
ということを。
感情の奥に、家族の法則がある
今、日本では「思考を変える」「感情をコントロールする」という自己責任論的なアプローチが主流です。
ですが、HECはそこに根本的な問いを立てます。
その感情は、本当にあなたのものですか?
怒り、悲しみ、孤独感、焦り——それらは、あなた自身の感情ではなく、家族から受け継いだものである可能性があります。
この視点に触れたとき、多くの方が涙を流します。
そして、肩が軽くなって、胸にスペースができて、呼吸が深くなり、本当の自分に戻っていく感覚がやってきます。
同時に、迷う方もいます。
「これまでの自分の見方が変わってしまう」「手放すのが怖い」という感覚です。
HECは、その迷いをホールドすることも、サポートしています。
答えを急かさず、あなたのペースで、一緒にいる。
それもまた、家族システムの学びの一部です。
HECの活動が11年目となる今年、この体験と確信から生まれた、初めての専門認定プログラムが始まります。
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HEC 川村法子


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